【おまけ】映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』

映画『サイダーように言葉が湧き上がる』

 

和:こんにちは郡司和斗です。芭蕉さん、 今日はよろしくお願いします。

 

芭蕉松尾芭蕉です。映画はあんまり観ないんだけど、 これはそこそこおもしろかったね。今日はよろしくお願いします。

 

和:はい、それでは、今回は映画『 サイダーのように言葉が湧き上がる』 の感想戦をやっていきたいと思います。 映画のあらすじと公式が公開している冒頭20分の映像は以下の通 りです。

 

https://youtu.be/KKoyD1Sp0-E

 

あらすじ

17回目の夏、地方都市⸺。
コミュニケーションが苦手で、 人から話しかけられないよう、
いつもヘッドホンを 着用している少年・チェリー。
彼は口に出せない気持ちを 趣味の俳句に乗せていた。
矯正中の 大きな前歯を隠すため、
いつもマスクをしている 少女・スマイル。
人気動画主の彼女は、 “カワイイ”を見つけては 動画を配信していた。

俳句以外では思ったことを なかなか口に出せない チェリーと、
見た目のコンプレックスを どうしても 克服できない スマイルが、
ショッピングモールで出会い、 やがてSNSを通じて 少しずつ言葉を交わしていく。

ある日ふたりは、
バイト先で出会った 老人・フジヤマが 失くしてしまった
想い出のレコードを 探しまわる理由にふれる。
ふたりはそれを 自分たちで見つけようと決意。
フジヤマの願いを叶えるため 一緒にレコードを探すうちに、
チェリーとスマイルの距離は 急速に縮まっていく。

だが、ある出来事をきっかけに、 ふたりの想いはすれ違って⸺。

物語のクライマックス、
チェリーのまっすぐで 爆発的なメッセージは 心の奥深くまで届き、
あざやかな閃光となって ひと夏の想い出に記憶される。

アニメ史に残る 最もエモーショナルなラストシーンに、
あなたの感情が湧き上がる!

 

 

和:というわけなんですけれども、 芭蕉さんはあんまり映画を観ないんですか。

 

芭蕉:そう。映画もアニメもあんまり観ないんだけど、 今回まあまあ良かったから、 次からは旅先でも良い作品があったら観ようと思う。

 

和:わざわざ旅先で観るんですね。それはそれでよかったです。 ではまず、全体的な感想から簡単にいきましょうか。

 

芭蕉:そうだね。これは皆感じることだと思うんだけど、 映像を一枚の絵で切り取ったときに印象的になるシーンが多くて、 すごくかっこよかった。 背景美術のビビットな色合いがとてもよくて、 田んぼの中のショッピングモールとかスマイルの家の内装とかグッ ときた。あと、 ちょくちょく画面に入ってくる落書きもそこまで目障りな感じもな く良いアクセントだと思ったね。ただ肝心の俳句がちょっとね…… 。いや、わかっているんだよ。 そもそも作品の拙さも含めてある程度狙った演出だと。 そのために現役高校生に俳句を作らせたんだろうしね(エンドクレ ジットで開成や横浜翠嵐の名前があった)。

 

和:あー、まあ確かにわかります。最後の告白のシーンとか、 ふつうに良いと思うんですが、 どうしてもあそこで反射的に笑ってしまうというか、 こっち側の問題で満足に受け取ることができなかったというのはあ ると思いますね。

 

芭蕉:そう、 まあそれがこっち側の問題なのか作品の強度の問題なのか今は判定 できないけれけど、どうしても気になった。

 

和:ありがとうございます。 僕の全体的な感想も似たような感じですね。 お話より絵の良さに惹かれました。あとはアイテムの配置。 ショッピングモールから地方都市の生活や土地性を考えるのはすこ し二番煎じ感がありますけど、まだまだ有効だと思いました。 主題歌もよかったです。 あの音楽の軽さが鑑賞後の印象をかなり支えていると感じました。 あと杉咲花の声が好き。

 

和:それではもう少し細かくみていきますか。

 

芭蕉:はいはい。

 

ショッピングモールの描写

 

和: 個人的に冒頭20分のショッピングモールの描写がおもしろかった です。 ドンと田んぼの中に大型ショッピングモールが建った景色は異様で 、でも地方出身者としてはとても馴染み深い。 僕の地元の水戸内原のイオンモール等も同じような景観です。 何もない宇宙空間にステーションが浮かんでいるように、 田んぼの中にイオンモールがある。 それがあるおかげで私たちは色々な恩恵を受けています。 基本的にモールの中だけで生活に必要なものがほぼ全て足りている 。この映画でも服屋や雑貨、食品売場以外のテナント(歯医者やカ ルチャースクール、デイサービス)が印象的に描写されています。 また、 配信者として若者代表の象徴のように描かれるスマイルやその姉妹 の遊びがモールの中だけで完結しているように見えるのも特徴的だ と思いました。ショッピングモールは郊外や地方の画一化、 商店街の荒廃を発端とした地域コミュニティの弱体化を促進してい るとしてネガティブに捉えられる対象によくなりますが、 この映画では逆に、 認知症の老人も日本語ネイティブではない少年もオタク気質の青年 も内気な男子高校生もコンプレックスを持った人気配信者も包み込 む空間として、ポジティブにショッピングモールを描いています。 その点『ショッピングモールから考える』(東浩紀 大山顕)の影響をもろ感じます、 というかイシグロキョウヘイ佐藤大はふつうにこれを読んだらし いので、まあ納得です。

 

芭蕉:なるほどね、 ワシは地方がうんぬんとかショッピングモールがうんぬんはよくわ からんけど、 田んぼの中にアレが建っていることの不思議なおもしろさはわかる な。冒頭でいうと、スケートボードを乗り回すシーンはよかった。 俳句の落書きやスケートボードのカメラアングル、 無理やりなアクションは観ているだけで気持ちよかったな。

 

和:わかります。 モールの中をスケートボードで疾走するのを現実で撮るのは難しい し、あのコンテの切り方だとなおさら。 人物がぐにゅんぐにゅん動くのも、 客観的な視点でありながら主観的な描写が強調可能なアニメの良さ が出ていたと思います。

 

芭蕉:モールの中を吟行するところはどう思った?

 

和:『俳句さく咲く』 というテレビ番組でやってそうだなと思ってウケました。

 

芭蕉:確かにやってそうだ。

 

和: でも収録でも何でもないのに短冊に俳句を書いてその場で読み上げ させるのはちょっと異様だろ笑、と思いました。

 

芭蕉:まあドラマの都合上ね。

 

レコードとコンプレックス

 

和;中盤はどうでしたか。

 

芭蕉:レコード探しで二人がデートしてるところは、こういう「 間合い」が一番楽しいんだよな……とか思った。

 

和: ツイッターライブ配信のフォローいいねで一喜一憂したりとかク エスト的な事情につけて連絡取り合ったりとかふつうに自分のこと かと思って泣いちゃいました。

 

芭蕉:今の人はそうなのね。あと、 スマイルにレコード割らせる役をさせるのはさすがにかわいそうな 気が。

 

和: あのシーンは他にいくらでも自然に劇を進める展開あっただろと思 いましたけど、 一回スマイルと主人公の間に溝を作りたくてああなったんでしょう ね。その後の展開は一瞬で察しました笑。

 

芭蕉: まあそんなひねくれた脚本ではないだろうとポスター観た段階で思 う。 作中のアイテムとしてレコードを選んだこと自体は対比が明確でわ かりやすかったね。

 

和:そうですね。レコードと俳句が古い物、 ツイッターライブ配信が新しい物として結構意識的に画面に映さ れていました。

 

芭蕉: でもその構造を表現することにそこまで新規性はないように感じた けどね。

 

和:辛辣だ。

 

芭蕉: コンプレックスに対する描き方もシンプルといえばシンプル。

郡司:それは思いますね。 コミュニケーションが上手くできないとか、 出っ歯が気になるのをその人の個性として他者が認める、 もしくはその人自身が自分の性質を受け入れるというのは、「 アイデンティティ」とか「自己受容」とか「リフレーミング」 の基礎的な理論として当たり前っちゃ当たり前の結論ですよね。

 

芭蕉:でもまあやっぱり、 王道で前向きな感じがこの作品の好感度を上げているのかなと捉え られるよね。

 

和:だから嫌いってパターンもありますけどね。

 

最後の夏祭りのシーン

 

和: 短詩を書いている人がこの映画をおもしろいと思えるかどうかは、 究極的に言えば最後の告白シーンにノれるかノれないかにかかって いると思います。 俳句で青少年の心の叫びをすることにアレルギー反応が出る人は、 そこまででどれだけ映画を楽しんでいたとしても「おわり」 な気がします。

 

芭蕉:うーん……そうなんだよねえ……。

 

和: 幸い僕はああいうむずがゆくなる痛い展開は好物なのでにやけなが ら観ていました。

 

芭蕉:まあワシも距離感がありすぎて冷静に観られた。

 

和:たぶん、 どっぷり俳句や俳句界隈にコミットしている人ほどあのシーンが来 たときに「ああ、 そういう風に俳句という形式を物語のために使うのね」 とイシグロキョウヘイに冷めた目を向ける気がする。

 

芭蕉: 短詩をやっている人には最後のシーンちょっと受けが悪いかもしれ ないけどうちらはもっと客の射程を広く考えているんで、 みたいなのが少し透けるのも冷める原因なのかな。

 

和:そこまで明言していいのかは微妙なところだけど、 言わんとすることはわかります。

 

芭蕉:とか言って観る前から告白で終わる気は薄々していたし、 伝えるなら俳句でやるだろうなとは予想していたから、 そこまで悪い意味の衝撃は少なかった。

 

和:まあ、主人公の設定(口下手で俳句が好き)を見た時に、あ、 そういうことか……って思いますね。

 

芭蕉:そうそう、察する。 ある程度察してから観たのでワシはそこそこ満足。

 

和:よかったです。EDのテーマソングはどうでしたか。

 

芭蕉:これがねー、めっちゃ好き。Never young beachのファンになった。映画の最後が最後なだけに、 軽い感じの主題歌がいいバランスを取っていたと思う。 これのおかげで色々と救われた。「 サイダーのように言葉が湧き上がる」 って句としてみるとゆるゆるだけど、 歌詞としてはその薄さがメロディを伝える上で良く働いていると感 じたね。

 

和:あーありますよね。 アニソンとか特に歌詞に意味がなければないほど音楽そのものを楽 しめる。僕も主題歌とても好きで、 知らないバンドだったので今後も追っかけようと思います。

 

和:今日はありがとうございました。 この辺で終わりにしたいと思います。

 

芭蕉:こちらこそありがとう。 また何かおもしろいものがあったら誘ってください。 新しい物に疎いので、助かるよ。

 

和:はい、またお誘いしますね。それではお疲れ様でしたー。

 

芭蕉:お疲れー。